メディカル・コミュニケーション ジャーナル

発刊の趣意

  • 類を見ない超高齢社会の中にあるわが国は、あらゆる側面で大きな変革が求められています。従来から、高齢化が進むとともに、数多くの困難や課題を解決してきましたが、その変革には終わりがないといえるでしょう。2025年には、団塊世代がすべて75歳以上になり(2025年問題)、わが国社会の構造的な変質を知らせる象徴的な年となりました。高齢者人口はさらに増加し、医療および介護の需要は大幅に拡大することが予測されている2040年問題も迫っています。日本の総人口の約35%を65歳以上の高齢者が占め、社会保障費が増大することになります。その中、メディカル分野やケア分野は従来の「福祉モデル」を超えた新しいアプローチが求められることになるでしょう。

    しかし、わが国が直面する超高齢社会への移行にともなう課題群は、イノベーションのチャンスであるという側面があることをよく理解しなければなりません。別の言い方をすれば、日本は世界に先駆けて超高齢社会を経験し、今後もその質的な革新を遂げる必要があり、それは日本にとって大きな負担であると同時に、世界に先行して未来社会の問題を経験・解決するチャンスを得たのです。この課題解決の経験と、得られたイノベーションは高齢化する世界各国にとって貴重な財産だといえるでしょう。高齢化は日本固有の危機ではなく、世界は今後、緩急の差はあるとしてもどの国も経験する共通の社会課題なのです。

    医療や介護においてコミュニケーションは、これまでも重要な要素として扱われてきました。しかし、診療や医療サービス、福祉サービスにおける「患者・利用者との会話」や「職員間の意思疎通」の枠を超え、メディカル・ケアのイノベーションの今後を決定づける重要な要素になっているのです。

    AI、ロボット、センシング技術、データ基盤、デジタル技術などがメディカル・ケアの現場で現実的に活用され、その変革はこれまでのメディカル・ケアの枠組みを超えた革新にいたることが想定されます。医療者、介護者、患者、利用者、家族、AI、ロボットというさまざまな主体が参画する新しいコミュニケーション環境が形成されることになります。そこでは「人間同士がどのようにコミュニケーションするか」だけではなく、「人間と人工知能、人間とロボット、そして人間や人工知能、ロボットがデータを通じてどのようにケアを共創するのか」という研究が求められているのです。

    本誌は、メディカル分野とケア分野におけるコミュニケーションを切り口にして、次世代のメディカル・ケア分野のイノベーションを目指すとともに、新しい社会保障モデルを創出することを目指しています。この革新は世界各国の生活の質を向上させることに貢献できる可能性があり、国際的競争力ある形で普遍化することを目指さなければならないでしょう。具体的には次のテーマを重視しています。

  • AIやロボットと協働・共創するメディカルアンドケア・コミュニケーション

    これからの医療・介護現場では、AIやロボットが単なる「道具」ではなく、医療・ケアを構成する重要な主体になっていく可能性があります。これまでの医療・介護では、「人間が判断し、機械がそれを支援する」という構造が基本でした。

    しかし、AIの普及と発展によって、この関係は根底から変化することでしょう。AIは大量の医療情報を分析し、画像を認識し、患者の状態を予測し、ケア記録を整理し、職員に情報を提示することができます。ロボットも、移動支援、見守り、コミュニケーション、リハビリテーション、生活支援など、さまざまな領域に活動範囲を広げています。ここで重要になるのが、「AIやロボットを導入すれば医療・介護が効率化する」という発想を超えることでしょう。

    研究すべき点は、人間とAI、人間とロボットが、どのような関係を形成すれば、従来には存在しなかった新しい医療・ケアの価値を生み出せるのかという問題です。

  • AIやロボットとの共創能力を促進するコミュニケーション環境

    AIやロボットが導入されれば、それだけで人間がAIやロボットと協働できるようになるわけではありません。むしろ重要なのは、「AIやロボットと協働できる人間」をどのように育てるのかという問題がテーマとなります。ここには、従来の医療・介護において教育されてきたこととは異なる新しい教育的視点が必要になります。

    従来の医療・介護教育では、専門職としての知識や技術を習得することが中心でした。AIやロボットと協働する環境では、それだけでは不十分で、AIやロボットとの協働する能力、たとえば、AIから提示された情報を評価する能力、AIの誤りを発見する能力、AIに適切な問いを投げかける能力を組み入れることが重要になります。

    さらに、効率化された時間を、利用者との対話や観察、意思決定支援など、人間にしかできない活動へ振り向ける能力も必要です。したがって、これからのメディカル・ケア教育では、単なる「AIリテラシー」ではなく、AIとの共創能力を育成する必要です。さらには、人間とAIが互いの能力と限界を理解しながら、継続的に学習する社会的・組織的環境です。

  • 文化地域普遍的なメディカルアンドケアプラットフォーム

    日本において創成された新しいメディカル・ケアの社会モデルは、これから高齢化する世界各国の社会に役立つものとなります。そして、日本の知見とシステム、知識は特定の国や地域の制度だけに依存しない、文化地域普遍的なメディカル・ケア・プラットフォームとして構築され、提供されることが望ましいでしょう。医療や介護は、それぞれの国の文化、宗教、家族制度、社会保障制度、経済状況、地域社会の構造と深く結びついています。日本で成功した医療・介護モデルを、そのまま海外に移植できるものでもありません。

    例えば、家族の役割が大きい社会と、個人の自立を重視する社会では、ケアの考え方が異なります。死生観、高齢者へのまなざし、医療者と患者の関係、最新技術の社会的受容性も異なります。

    日本オリジナルの制度をそのまま輸出することではないのです。必要なのは、文化や地域の違いを超えて共有できる「ケアの基本原理」を発見し、それを各地域の文化に合わせて実装できるよう、各国の経済・社会状況を克服するための金融的・工学的支援といった要素までを含めたプラットフォームを構築することが求められます。

    世界共通のメディカル・ケア・プラットフォームをつくるために、異なる文化の中で、人間が何を大切にしているのかを理解し、それを医療・ケアの実践へ翻訳できるコミュニケーション基盤がこれまでにもないほどに重要となるでしょう。

    メディカルアンドケア・コミュニケーション研究協議会

運営体制

  • 本メディカル・コミュニケーションジャーナルはメディカル分野やケア分野におけるコミュニケーションを中核にして多様な融合的テーマを扱うオンラインジャーナルです。本メディカル・コミュニケーションジャーナルは、メディカルアンドケア・コミュニケーション研究協議会(MCCRA)が編纂と運営を担当しています。刊行頻度は年2回以上の不定期刊となっています。

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