無医地区での遠隔診療の取り組みで見えてきた、有用性と課題

2018/10/31
by 甲斐洋一朗

日南市 健康増進課 地域医療対策室 室長補佐

はてなブックマーク

これまでの課題

対面診療との大きな違いは、医師が直接触診や聴診を行えないことである。このことは、対象疾患が限られるなどの医学的な制限があるであろうことは想像できるが、患者の心理的な要素である安心感・満足度の低下につながる恐れがある。今回は、たまたま実証の対象となったのが比較的症状が安定した慢性疾患の患者さんであることや、医師や医療スタッフとの信頼関係が築けていることなどの条件が整っていたが、今後ほかの地域で活用していくためには、利用可能な疾患の特定や患者への心理的影響などさまざまな視点での有用性を検証する必要がある。

また、診療報酬において電話再診と同様に再診料は算定できるが、看護師や事務職員の交通費などの移動や拘束にかかわる費用は算定されない。現在は実証実験であるためコストは考慮していないが、本格運用となればこれらのコストが課題となる。コストが発生しない方法としては都市部モデルで採用されている患者さんと医師だけで実施する D to P(医師-患者)方式があるが、そもそも D to N to P方式を採用した要因の1つとして、高齢者がタブレット端末を操作できないことがある。ストレスなくスマートフォンやタブレットを使いこなす世代が対象であれば問題はないが、地域で通院に困難をきたしているのはおおむね高齢者であると推測されるため機器操作が大きな障害であり、現段階ではD to Pは現実的ではない。

とはいえ、遠隔診療の実施によって医療スタッフ、特に医師の移動が減少することによる医療提供体制全体としての効率化が、診療報酬上のデメリットを上回る可能性は大いにあるものと考える。さらには、国として次期診療報酬改定で遠隔診療を評価する方向性も示されており、評価にあたっては地域モデルでの遠隔診療と対面診療との比較によるエビデンスが求められる。

おわりに

いくつか課題はあるが、高齢化に伴う通院困難者の増加や就労人口の減少に伴うますますの医療人材不足が予測されるなか、遠隔診療の技術は地域医療提供体制の一端を補完する有効なツールであると確信する。さらには地方において今後、これまでの地域医療提供体制では物理的・人的リソース消費が膨大となるため、遠隔診療などのICTの導入が不可避となることは間違いない。ただし、健康や人命にかかわる繊細さを要するものであり、医学的エビデンスの確立はもちろんのこと、対面診療との差異に関してあらゆる角度からの実証・検証を積み重ねる必要があると考える。 今後は新たな地域での実証や新たな 実証方法の導入等を検討中であり、より多くの実証データの蓄積が図れるよう調整していきたい。
(本稿の情報は2017年7月発行号掲載の記事に基づきます)

本稿の掲載号はこちら『メディカルコミュニケーション 2017年夏号』特集:日常になる 遠隔医療

  1. 1
  2. 2
  3. 3

著者

甲斐洋一朗 氏

日南市 健康増進課 地域医療対策室 室長補佐

平成7年に日南市役所入庁、土木技師として都市建設課〜土木港湾課〜建設課で道路・公園等の建設事業を担当。平成25年10月の地域医療対策室新設とともに現職。医療経営士3級。 市立病院の経営改善事業や初期夜間急病センターの運営、市民への啓発事業など地域医療に関するさまざま な取り組みを行うほか、変わった取り組みとして、医療ケア児にかかわる職種の情報交換の場として「こどもケアカフェ」を 開催。 詳しくはFacebookページ『日南市役所地域医療対策室』を参照。


^