食を中心としたwell beingの実践・フィンランドのSDG 3に対する取り組み

2019/10/15
by 藤原斗希子

サステナビリティ・コミュニケーションアドバイザー

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 福祉先進国として知られる北欧のフィンランド。SDGs(持続可能な開発目標)のゴール3、健康・福祉に関しては、身体的な健康のみならず精神的な健康やライフスタイルそのものまで含めた“well being”の視点からの取り組みが進む。

 フィンランド在住の藤原斗希子氏に現状をレポートいただいた。

健康的な生活を目指したコミットメント

 高い税金によって福祉制度が整っているフィンランド共和国。医療サービスは基本的に公的機関が行い、出産や大がかりな手術の医療費は、すべてその税金でカバーされている。

 このような福祉国家であるフィンランドで、一般市民がSDGs(持続可能な開発目標)に取り組める「コミットメント 2050」というシステムがある。これは、フィンランドの未来に向けた共通のビジョンに対して、一般市民や組織・団体などすべてのプレイヤーがそのビジョンの共通の理解と行動をコミットするものである。

 

 このコミットメントには、すべての人々の健康的な生活を確保するために、栄養に特化したコミットメントがある。主に食品業界やそのステークホルダーが食事の栄養価を改善したり、栄養に対する責任ある活動を奨励したりしている。

 では実際にどのような取り組みがあるのか、食品業界の事例を紹介する。

食品業界がリードするサステナビリティの取り組み

① Kesco社:食と運動で子どもの健康を支援

 食品業界大手のKesco社は、子どもたちの身体活動と健康的な食事を促進するために、バスケットボール協会と共同で、2016年にPirkka Street Basketイベントを開催した。 フィンランド国内の16カ所で、地元のバスケットボールクラブやKesko社の小売店などにより開催され、計750人の子どもがストリートバスケットボールに参加した。

 

 小売店の敷地内で行われたイベントには地元の小中学校も参加し、Kesko社から無料で軽食と送迎バスが用意された。軽食は、このイベントのコンセプトである健康的な食事療法に沿って作られたものが配られた。

 イベントに参加した小売業者は「自分の価値観にあった活動の一貫で、参加する意義があった」と話している。

 また、医薬品の販売代理店であるOriola社と共同で「栄養」「回復」「運動」「美容」「健康」の5つの分野から構成されるスキンケア製品の開発・販売を行うHehkuをオープン。スキンケア製品のほかに、栄養サプリメント、創傷治療用製品、そして育児やさまざまなライフステージにいる女性の健康および福祉用の製品も提供している。

 同社はこのような2つの取り組みについて、SDGsのゴール3に対応させている。

② S-Group社:野菜摂取の増加を促進

 同じく食品業界のS-Guroup社もSDG 3に対応した、汎用性の高い野菜食品の種類を増やすことに取り組んでいる。現在、フィンランド人の平均的な1日の野菜消費量は全食品消費量の10%未満となっており、より多くの人々に季節の野菜などを使った食品を摂取することを勧めている。

 具体的には、同グループ内のレストランチェーン店にベジタリアン向けのメニューを増やしたり栄養成分を表示したりして、ヘルシーな食事の選択肢を増やすことに取り組んでいる。

 また従業員に対しては、従業員の健康を促進するために徒歩や自転車通勤を奨励したり、新入社員や若手社員に対して、精神的な健康を維持するための「Nuori Mieli(ヌオリ・ミエリ)=ヤング・マインド」プログラムを実施している。

③ Arla社:より上質な栄養素の提供

 乳製品業界のArla社は、健康的な生活のために最も重要な要素のひとつは私たちの食事、という考えのもと、Arla®ブランド製品の栄養基準を定めている。

 これは消費者がよりヘルシーな乳製品を手に入れやすくする基準であり、乳糖、塩分、脂肪分を制限しながら、乳タンパク質とカルシウムの含有量を維持している。この結果2018年には、ミルク、ヨーグルト、およびチーズを含むArla®ブランド製品の91%がこの基準を満たし、2020 年までに95%の基準を満たすことを目標としている。

 同社ではこのような取り組みを SDG 3のターゲット 3.4「2030年までに、非感染症疾患(NCD)による早期死亡を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健および福祉を促進する」に対応させている(Arla社Corporate Responsibility Report『2018 Our Responsibility』参照)。

製薬企業や私立病院での取り組み状況

 福祉国家であるフィンランドは、SDG 3 に関連する製薬企業やヘルスケア業界の市場が小さい。そんななか、SDGsに関連の深いESG(Environmental:環境、Social:社会、Gover nance:ガバナンス)のポリシーを掲げている私立病院がある。Mehiläinen(メヒライネン)というフィンランドで全国展開している民間の病院である。

 ポリシーの内容は、ゴール3にも対応している「フィンランド社会のためのよりよい健康と幸福」をもとに、持続可能な成長に向けた経済的な原則に沿って病院の運営を行うとしている。 また、ヘルスケア分野における公共および民間のサービスプロバイダーが、顧客志向とケア効果および費用対効果を改善することを促進している。

まとめ

 このように、フィンランドにおけるSDG 3への取り組みは今のところ食品業界がリードしている。

 国民の健康的な生活を確保するための栄養に関するコミットメントには「2020年までに、フィンランド全国民が食事ガイドラインに沿った食事を取ること」と書かれている。

 北国の栄養価の低い食事事情を反映した、食生活の改善がこの国のゴール3の取り組みといえよう。

 

この記事の掲載号

『Medical Communication』2019年夏号 特集 持続可能な医療と健康 〜開かれる医療で社会とつながり課題解決を目指す

著者

藤原斗希子 氏

サステナビリティ・コミュニケーションアドバイザー

2013年よりフィンランド在住。専門は、CSR(企業の社会的責任)・サステナビリティレポーティングなどの情報開示。移住後は、地元大学のサーキュラーエコノミー(循環経済)や移民・難民リサーチのプロジェクト、また環境・社会課題の解決に向けたスタートアップ企業のネットワークに参画している。


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