ケースで見る地域コミュニティの形成

2020/01/31
by 守本陽一

公立豊岡病院 臨床研修医/YATAI CAFE 店長

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はじめに

なぜコミュニティがバズワード化しているのだろうか。ケアの文脈でもコミュニティ形成の必要性がささやかれている。近年、貧困や年収、孤独などの社会的な要因が人々の健康に大きく影響していると言われている。特に、孤独は、タバコ1日15本分に相当する死亡リスクとも言われており、分断化する社会の中でコミュニティの形成が必要とされている 1)。

YATAI CAFÉとは

兵庫県豊岡市で医師をしている著者は少し変わった方法で地域コミュニティの形成を行っている。それは、医師や看護師などの医療者が移動式屋台を引いて街中を巡り、コーヒーを媒介物にしながら、住民の方と健康的な会話を行うYATAI CAFÉという活動である。コーヒーを配る屋台の店員と話していたら、実は医者だった。そんな病院の外、日常生活での医療との偶然の出会いをデザインしている。

YATAI CAFÉの日常はこんな感じだ。

ある日、「なにをやっているんですか?」と商店街で通りかかったご婦人が怪訝そうに僕らに声をかける。「コーヒーを配ってるんです。物々交換で飲めます。よかったら飲みませんか?」僕らがそういうと、ご婦人はますます不思議そうな顔をした。何かよくわからないけど、面白そうだなと思ってくれたのか、ご婦人はコーヒーを受け取ってくれた。多分、一種のまちおこし的な活動だと思ってくれたのだろう。「コーヒーおいしいですね」と温かい表情でご婦人は答えた。どこのコーヒー豆を使っているのか、ご婦人はどこに向かっていたのか、ご婦人と僕らはそんな他愛もない話をした。

そのうち屋台の屋根に付いている聴診器を不思議がって、僕らが医師や看護師であることを伝えると、最初はどこか腑に落ちなそうにしながらも、だんだんといろんな話に発展していく。「面白いことやってるねー」と面白がって友達を呼んでくるおばちゃん、「病児保育がなかなかみつからないです」と福祉の相談をするお母さん、「病院にいかんでもわしは健康!」というパチンコ帰りのおじさんもいた。毎回来てくれる親子もいる。そのうち、屋台の周りに集まってきた高校生とおじさんが話し出すこともある。屋台を媒介物に人々が集う光景は、とても心地よい(図1)。

図1 屋台には次第に様々な人が集まってくる

活動のきっかけは、健康教室にあった。当時医学生であった筆者はまちの人々向けにこんなときに病院にかかってみようという医療教室を行った。新聞などで告知してもらったにもかかわらず、集まったのは一人だけだった。

「医療」を学んでくださいと声高に叫んだところで、正しさでは人が集まらないと考えた。東京大学の孫大輔先生、密山要用先生らと共に、私は2016年10月に住民主催の「芸工展」に「モバイル屋台de健康カフェ」を出店した。医師が移動式屋台を引いて、コーヒーなどを振舞いながら、地域の人と健康生成的なコミュニケーションをとる。移動式屋台によりケアと住民の対話の場を生み出した。その後、2016年12月より私は、その後の勤務先でもあり、出身地でもある兵庫県北部の豊岡市においても活動を開始した。

小規模多機能な公共空間

屋台を巡って行われる対話は、コーヒーや屋台について、個人の身の上の話、まちでの思い出など多岐にわたっている。それは、コーヒーを飲むという日常的な会話から発生している。医療者であることを前面に出さず、屋台やコーヒーという多くの人の関心を引く仕掛けを行うことで、まちなかで健康教室を開いても来ない健康に無関心な層ともゆるくつながり、世間話の延長で健康をめぐる対話が偶発的に発生する。

病院の中で固定化された医師-患者関係から始まる診察ではなく、コーヒーを配る人-もらう人というカジュアルな関係性から始まる対話では、より本音の話が期待できる。活動を行う医療者は、「お医者さん」という役割から「屋台を引く〇〇さん」という一個人へと、医師と住民の関係性が変わっていった。後からカフェの店員が医師であると気づくことで、医師と住民の関係性が変化していくのだ。

一方で、医療者と地域住民の関係性を変えるだけではなく、まちのソーシャルキャピタル(社会関係資本)の編み直しにもつながっていた。「屋台」という装置が、コミュニケーションの磁場となり、日常会話が発生する。健康をめぐる対話が生まれ、またコーヒーを飲みながら、リラックスできる場所ともなる。子どもたちにとっては遊び道具となり、大人たちにとっては憩いの場となる。地域住民が思い思いの楽しみ方ができる場所である。

昔ながらの銭湯、カフェ、公園、路地などがそのような機能を果たしてきたが、それらが徐々に失われていくなかで、モバイル屋台de健康カフェは、地域のつながりの編み直しの場になりうる。自殺予防因子としての「ゆるいつながり」を増やすことで、健康的なコミュニティ形成に寄与している 2)。誰もが訪れることができるモバイル屋台de健康カフェは小さな公共空間を作っているといえるだろう。

また、モバイル屋台には多くの医療・介護関係者のみならず、行政、アート関係者、建築士などが参加している。普段は勉強会に来ない医療者でも、屋台やコーヒーというポップな活動には参加する場合もあり、専門職同士の「ゆるいつながり」も形成していると考えられる。実際に、僕らの屋台は、コミュニティへの興味関心が高すぎて、医療福祉の職場では浮いてしまうような医療者たちの愚痴を言いあう場にもなっている。ケアにかかわる人に必要なのは、こうした“居場所”なのかもしれない。こうして、日々医療現場で受ける色々な“いびつなこと”も、この居場所で溶かしていっているのかもしれない。

そうして多様な人が集まることで、居場所のない障害を持った方々が来られたときも、医療者、非医療者問わず、その人にとっての居心地のいい居場所になっている。彼らが知らなかったインフォーマル、フォーマルなコミュニティやサービスを紹介することも少なくなく、社会的処方(コミュニティの処方)を行うような展開にも発展している。

このように、モバイル屋台de健康カフェは「健康無関心層へのアプローチ」「ソーシャルキャピタルの醸成」「医師-患者関係の変化」「多職種連携」「社会的処方機能」など、多様な役割を持つ。いうなれば、「小規模多機能な場」である 3)。明らかな健康課題をターゲットとする課題解決型ではなく、地域の資源を活用しながら、人々がwell-beingとなる要因を強化する健康生成論的アプローチだからこそ、活動していくうちに見えてくる役割が多くある。明確な目的を持たずアート的に行う活動だからこそ、思いも寄らない結果が見えてくる。

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著者

守本陽一 氏

公立豊岡病院 臨床研修医/YATAI CAFE 店長

1993年神奈川県生まれ、兵庫県出身。医師。学生時代から医療者が屋台を引いて街中を練り歩くYATAI CAFE(モバイル屋台de健康カフェ)や地域診断といったケアとまちづくりに関する活動を兵庫県但馬地域で行う。現在も初期研修の傍ら、活動を継続中。最近の関心は、建築、ランドスケープデザイン、本屋あたり。日経メディカル「医療ってなんだっけ」連載中。日本学生支援機構優秀学生顕彰優秀賞受賞。


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