こんな病院見たことない!? 江戸川病院のホスピタルアートがなんだか楽しい

2020/03/18
by SAKURA

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近年日本国内でも認知が広まり、各地で導入が進むホスピタルアート。白を基調としたデザインが多く、ともすると無機質になりがちな病院空間にアートの要素を取り入れることで、患者さんの心を和ませたり、医療者と患者の間のコミュニケーションを促す役割などもあるとされる。東京都江戸川区にある江戸川病院は、早くからホスピタルアートを取り入れ、その斬新な院内アートは知る人ぞ知る存在となっている。フリーライターのSAKURA氏にレポートいただいた。

東京都江戸川区にある江戸川病院 本院。外観はいたって普通の病院なのだが…

一見普通の外観から…

「ここ病院!?」

院内に入って思わず呟いた。ピカソ、ゴッホ、リキテンシュタイン。さまざまな名画の模写やポップなイラストが壁や天井を覆う。

上:採血採尿検査室前の廊下。ハリウッド俳優の似顔絵アートが並ぶ
下:放射線治療室入口の洞窟は、職員が3日間ほどで施工した。奥の蜘蛛のオブジェはIKEAのワゴンセールで購入したそうだ

採血採尿室前の廊下に並ぶのはハリウッド俳優の似顔絵アート。放射線治療室への通路はアトラクションのようなゴツゴツした岩肌の洞窟だ。MRI装置の上部には巨大なゾウのぬいぐるみが鎮座する。リハビリテーションセンターの壁にはリハ侍というキャラクターが患者を見守っている。外来棟エントランスホールには3階建ての吹き抜けいっぱいに、植物の生えた巨大な岩のオブジェがある。そこでは年数回、コンサートやマジックショーなどのイベントも行っているという。

上:MRI検査室のゾウさん。院長が見つけてきたぬいぐるみだという(画像提供:江戸川病院)
下:リハビリテーションセンターで患者を見守る、リハ侍。実際のスタッフがモデルだ

外来棟の巨大な岩のオブジェ。クライミングができそう


JR小岩駅からでバス10分。江戸川沿いの住宅地にホスピタルアートで話題を集める江戸川病院はある。病院で起きるメンタルな問題を解決するホスピタルアート。

病院にパステルカラーの壁画やスタイリッシュなサインがあるのはよく目にするが、江戸川病院のは奇抜さで群を抜いている。なぜ、このような派手なアートを取り入れたのだろう。秘書室係長の冨岡順子さんに話を聞いた。

インスピレーションのまま、遊び心で


「入職当時はこんな感じじゃなかったんです。ごく普通の病院でした。アートがすごいと言われるんですが、私たちは遊び心を表現している感じです。病院って楽しいところじゃないですから。待たされるし、思い通りにいかなくてストレスが溜まります。アートで患者さんの不安を和らげたり、気晴らしになればと思っています。医療以外のサービスでその部分を補えるのはいいことですから」。


冨岡さんは勤続23年。新卒で入職して以来、江戸川病院の変化をずっと見てきた。ホスピタルアートは院長直轄のプロジェクトで、広報的な立場を担う秘書室が取材に対応することが多いという。


2000年に赴任した故・加藤隆弘前院長(当時は副院長)が、米国留学先で遊園地のような斬新なデザインの病院を目にしたのがきっかけだった。それにならいインスピレーションのまま壁画を増やしていった。前院長には「職員が楽しく働ければ、必然的に患者さんへのサービスが向上する」という思いもあった。どこまでも楽しい病院を目指した結果だ。その思いは前院長急逝後、現院長である弟の加藤正二郎氏に引き継がれた。


アートの導入は“広告デザイン室”の職員3名が企画し、院長が最終的なジャッジをする。総合健診センター MAX LIFEのカフェのような内装も設計から施工まで担当した。院内のアートに限らず、医師の講演資料や雑誌広告など、各部署からのリクエストにも対応している。

総合健診センター MAX LIFEの入口。カフェっぽいおしゃれな内装だ

病院にクリエイティブの専門部署があるのは非常に珍しい。広告デザイン室の設置は前院長時代に遡るが、当初はシステム室の職員が兼任していた。そこにデザインの専門スキルのある職員を追加採用し、広告デザイン室として独立したという。


アートの制作には部署に関係なくさまざまな職員が参加する。プロジェクターで下絵を壁に投影し、院長自らが描いた絵も数多くある。


「これ、私が作ったんです」冨岡さんは赤いカッティングシートで作られた壁のタイポグラフィを指差した。

どこにもない楽しい地域の病院を


正直、患者からの反響がどうなのか気になるところだ。

「『気が滅入ったときに気分を変えるのに役立った』『院内散歩が楽しい』『いつ来ても面白い』という感想が多いですね。極端な苦情は聞かれないです。職員もこれが病院の特徴で、自慢できるところとして受け入れていると思います。強いて言えば、新卒入職の職員が院内の様子を見て“ふざけた病院”という印象を持ってしまうことはあって。『ここ大丈夫かな』と戸惑ってしまうみたいなんです」と冨岡さんは苦笑する。


江戸川病院の診療科目は23科目と非常に多い。大型総合病院が少ない江戸川区では希少な存在だ。遺伝子治療などがん先進医療も積極的に行っている。がん病巣へピンポイントで放射線を照射できるトモセラピー(放射線治療装置)を3台も有する病院は世界でも2カ所しかないそうだ。また日本では2台目となる、MRIと放射線治療装置を一体化したVIEWRAY MRIdian(ビューレイ メリディアン)システムも有している。ふざけているどころか、医療に対する熱量が伝わってくるではないか。新棟建設や傘下病院を増やすなど施設拡張も進めており、2020年の夏、本院と少し離れた新棟は渡り廊下でつながる。そこにも趣向を凝らしたアートを計画中だという。


「唯一無二の病院を目指しています。80年以上歴史があって、小岩といえば江戸川病院ですから。遠くの大学病院に行かなくても、地域の人がここで治療を完結できるようにしています。国や大学と関係がない個人病院だから、トップの決めた方針で思い切った運営ができるんです。医療体制よりアートが先に注目されるのは微妙ですけどね(笑)」

。

動物もいる!?

冨岡さんに日光が差し込む人工関節センターの待合室に案内された。大きな窓の向こうには10匹以上のリクガメがのんびり陽を浴びている。体長60cmはありそうだ。その奥にはフラミンゴとエミューがじっと佇んでいるではないか。カメと一緒にアルマジロも同居している。

カメのそばで飼育されるフラミンゴ。“鶴と亀”のイメージだという


「アニマルセラピーです。これも患者さんの気が紛れていいんです。どの動物も赤ちゃんを買ってきて育てたり、ここで孵化して繁殖したものです」。


他にもカピバラに似たマーラという動物や、イグアナ、ハッカン(雉)、アロワナなどの熱帯魚も飼育されている。さすが江戸川病院、とことん楽しませてくれる。確かにこんな病院どこにもない。


「あ、あれ、マズいですね」。

リクガメが1匹、お腹を上にして宙を泳ぐようにゆっくり足を動かしていた。


「山田さん、出番がきました!」すかさず事務職員に内線。

「カメのひっくり返し方にもコツがあるんで。担当者がいるんですよ」。
冨岡さんは楽しげに、リクガメが助けられるのを見届けていた。

上:院内で飼育されているリクガメたち
下:ひっくり返った子を救出する事務職員

著者

SAKURA 氏

ライターとデザイナーのパラレルキャリアの人。アート・デザイン周辺の話題や、ワーク&ライフスタイルにフォーカスした記事に取り組む。NPO法人の理事を務めた経験もあり、サステナブルな社会のあり方に関心を寄せている。 https://note.com/sakuraeyes


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