第1回 医療者に「経営センス」って必要なの?

2021/01/21
by 将志藤井

特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長

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病院運営において、地域に安定的に医療を提供していくためには経営学の視点が重要であるということは多くの方が実感していることだろう。

しかし、実際に取り組むとなるとどこから手を付けたらよいのかわからず、漫然と「これまで通り」にしているケースも多いのではないだろうか。

本連載では、さまざまな医療機関で経営改善に携わり、現在は熊本県益城郡にて病院経営に携わる藤井将志氏に、“医療の現場に落とし込める”経営学・営業の知識をご紹介いただく。

文・藤井将志(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)

医療で金儲けをするのか

「この手術をすると命を助けられるが、治療費は5,000万円かかる。あなたにそれが払えるか」。これは、手塚治虫氏の漫画「ブラックジャック」によく出てくるシーンである。漫画では高額な治療費を工面するので助けてほしいという設定でストーリーが展開されていく。医療というサービスがその他の一般消費材と明らかに違うのは「命を救うのにいくら払えるか」という、命を救うのに値段をつける点ではないだろうか。お金をなんとか工面できるのであれば、大切な人の命をいくらかけてでも救いたいと思うのは当然である。こうした世界にならないように、政府が医療保険制度という形で市場に介入している。


「医療は金儲けではない」という思いが多くの医療者の根底にあるのは確かであろう。そもそも、日本では金を稼ぐことを人前で賞賛しない雰囲気がある。金のことばかり言う人は人格的にも評価されにくい。学校でも“お金の稼ぎ方”なんて授業はない。しかし、現代社会で生きていくうえで金を稼ぐことは必須であり、誰もがそのことを考えている。

つまり、表向きは毛嫌いしておきながら、いつも気になっているのが日本におけるお金の概念ではないだろうか。筆者が病院経営にかかわりだした十数年前はまだ「病院もしっかりと利益を得て、再投資していかないとならない」なんて話をすると、けげんな顔をされることもあった。今では病院経営に関する学会は、医師や看護師などの医療者も含め大にぎわいである(表1)。根底には医療はお金ではない、という気持ちはありながらも、しっかりとした対価を得ていかないと持続可能に事業をしていけないという考えが浸透してきたからであろう。

 

経営における概念の変化

かたや経営の世界でも考え方は常に変化している。先に述べた持続可能な経営という概念は経営学の世界でも大前提となっており、継続的に企業が存続していくことを「ゴーイングコンサーン(going concern)」と言われている。

反対の概念としては、一過性の組織で短期的な利益を追求していくようなものであり、こうした組織はそもそも経営を前提としていない。さらに、90年代には企業が得た利益をコンサートホールや美術館などの運営を通して社会に還元するメセナ活動が始まり、2000年前後から企業活動そのものを環境に優しいものへと転換させる環境経営が広がり、環境だけでなく公平な取引や法令遵守などまで考慮したCSR(企業の社会的責任)という概念へと拡大していった。

近年ではマイケル・E・ポーターなどが提唱しているCSV(共通価値の創造)へと発展し、社会的課題を解決する製品・サービスを開発・販売するといった概念が広がってきている(表2)。ベンチャー企業の分野では、教育や貧困など社会問題を解決するベンチャー企業がソーシャルベンチャーと呼ばれ、注目されている。こうした視点からすると、病院経営はまさに事業そのものがCSVであり、ソーシャルベンチャーであるといえる。

 

この記事の掲載号

『Medical Communication』2017年夏号

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著者

将志藤井 氏

特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長

2006年に早稲田大学政治経済学部を卒業。病院向け経営コンサルティング会社である(株)アイテック、(株)MMオフィスを経て、2012年度から沖縄県立中部病院・経営アドバイザーとして(NPO法人病院経営支援機構所属)病院経営支援を行い、診療報酬を駆使した収益増、医療機器等の費用削減、業務効率化に携わる。2015年度から特定医療法人谷田会・谷田病院(熊本県甲佐町)の事務部長に着任、2017年度から熊本保健科学大学の非常勤講師(看護管理)も務める。大東文化大学の非常勤講師(病院経営)も歴任、内閣府主催の国際交流事業や米国国務省主催のIVLPプログラムにも招聘される。2013年に執筆した論文「日本医療再生の具体的提言」は神奈川県保険医協会から表彰される。


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