第4回 医療機関における人的資源管理について考える
2)常に“供給不足”の医療人材市場で
医療機関にとって難しいのは、労働市場において働き手の供給不足の状況が常に続いている点にある。医師や看護師を筆頭に、医療機関で働く人たちの多くは国家資格を持っており、転職しても就職先が見つかりやすい。
このため、医療機関にこんな賃金制度があり、モデル給与ではいくらくらいになるといった話ではなく、そもそもこのくらいもらえないと働かない、というような交渉が十分に成り立つ。例えば、北海道のへき地では産婦人科医を1人雇うのに年収3,000万円も払ったという事例が該当する。いくら支払っても地域に必要な医療を提供するため、医師や看護師などが必要な状況がある。
院内の目標管理や給与制度の構築を進めると同時に、それがしっかりと機能するためには、“その組織で働きたい”と応募してくる人材の数を増やしていく必要がある。
進化するマネジメント手法
ここまでみてきた組織行動と人的資源管理の一部の事例だけでも、「じゃあ、どうすればいいのか」わからなくなる。結局、どれが答えかではなく、“組織をどのようなかたちにしたいのか”という視点から取捨選択し、組織文化にしていくしかないだろう。
さらに最近は、先述してきた古くからある考え方にとどまらず、その延長上にいろいろな取り組みが広がっている。
権限を管理者に集めた組織形態ではない「ティール組織」1)という概念や、毎日から毎週短時間の対話をする「1on1ミーティング」2)を推進することでリーダーがチームをまとめる役割を果たすとか、何か大目標を決めて完成品を作るのではなく、小さく始めて試作段階から顧客に使ってもらい、PDCAを高速に回し市場ニーズに合った製品にしていく「リーン・スタートアップ」3)といわれるような考え方も出てきている。これらはまだ一部の企業で導入されている事例など、一般的とまではなっていないが、これまでの概念を超えた新しい取り組みとして興味深い。
しかし、こうしたことすべてを組織に取り入れてしまっては、何が何だかさっぱりわからない組織となる。また、医療の世界だけみても、看護方式がいろいろあったり、組織内で完結しない大学の医局人事で人材が異動したり、特有の慣行がある。このため、単純に一般企業で使われている経営学の考え方が適用されるわけではないだろう。こうしたことを含め、自分の組織がどのようなものを取り入れ、どのようなものは取り入れていかないかを考えていく必要がある。
1)『ティール組織 ―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(フレデリック・ラルー著、嘉村賢州著、鈴木立哉翻訳)、英治出版、2018
2)『ヤフーの1 on 1 ―部下を成長させるコミュニケーションの技法』(本間浩輔著)、ダイヤモンド社、2017
3)『リーン・スタートアップ』(エリック・リース著、伊藤穣一解説、井口耕二翻訳)、日経BP社、2012