最終回 医療機関に必要なファイナンスの考え方

2021/02/18
by 将志藤井

特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長

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これまで、医療の現場に落とし込める経営学・営業の知識を紹介してきた本連載。最終回は、経営学の領域で“ファイナンス”や“アカウンティング”と呼ばれている分野をみていく。病院経営に活用できる資金運用や投資の判断、医療機関特有の財務諸表分析の視点を掘り下げる。
文・藤井将志(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)

医療機関にとってのファイナンス

ビジネスをしていくうえで切っても切れないのがお金の話である。
経営学の領域では“ファイナンス”や“アカウンティング”と呼ばれている分野である。端的にいうと、資金をどうやって、どのくらい集めるのか、また集まった資金を何に投資していくのかを考えるのがファイナンスであり、財務諸表に関連することがアカウンティングである。

周知の通り、日本では株式会社が直接医療機関を運営することはできない。そのため、株式を発行して資金調達することはできないし、上場企業もないため上場時に求められるような株主価値の向上といった対策を求められることはない。

医療機関の資金調達方法は自己資金か銀行融資がほとんどであろう。一般企業であると株主や債権者などとのコミュニケーションも必要となってくるが、医療機関の場合は地元銀行数行とのやり取りで済んでしまう。やり取りといっても、財務諸表の推移表で直近の経営状況を説明することでこと足りる。理想的には毎月報告することが望ましいが、近年は銀行の方が安定的な貸出先を探している場合が多いので、四半期や半年ごとの説明でも十分に関係性は構築できるだろう。参考までに、現在は病院債の発行や、寄付、ヘルスケアREIT(不動産投資信託)、診療報酬債権などの資金調達方法もあるが、利用しているケースは限られている。

どんな資金需要が生じるか

資金需要の機会としては、高額な医療機器の購入や建物の新設や増築、新規の事業拡大が主となる。近年は承継問題を背景にM&Aも活発になっている。医療機関の収益は診療報酬という形で国が定めているので、価格競争によって値崩れを起こすことはまず考えにくい。診療報酬改定も2年に1度しかないうえ、点数が激減することもほとんどない。
このため、医療業自体は比較的安定した事業であり、融資も受けやすい。しかし、医療機関の倒産は毎年20件近くあり、要因として上位にくるのは、過剰投資である(図1)。

建て替えの際に、そもそもオーバースペックに作ってしまうケースと、規模としては妥当であるが、その後患者数が集めきれなく、売上が想定通りに伸びないケースが考えられる。

高齢者人口は日本全体で2042年に頭打ちになると予測されている。今後は、患者数が減少する地域も増えていくので、それを見越した投資をしていかないと、厳しくなるところが増えていくであろう。

だからといって、何か複雑なファイナンスの知識が必要かというとそうでもなく、売上が想定よりも伸びなかった場合でも耐えられるように、損益分岐点をどのくらいまで下げられるかを考えて投資をすればいい。損益分岐点とは、売上高と費用の額がちょうど等しくなる売上高または販売数量のことを指す(図2)。

会社の利益が赤字にも黒字にもならない0となる売上高であり、損益分岐点を超えると黒字になる。医療機関の損益分岐点が、病床稼働率100%で超えてくるのか、90%なのか、80%でも大丈夫なのかによって経営の安定度が変わってくる。

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著者

将志藤井 氏

特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長

2006年に早稲田大学政治経済学部を卒業。病院向け経営コンサルティング会社である(株)アイテック、(株)MMオフィスを経て、2012年度から沖縄県立中部病院・経営アドバイザーとして(NPO法人病院経営支援機構所属)病院経営支援を行い、診療報酬を駆使した収益増、医療機器等の費用削減、業務効率化に携わる。2015年度から特定医療法人谷田会・谷田病院(熊本県甲佐町)の事務部長に着任、2017年度から熊本保健科学大学の非常勤講師(看護管理)も務める。大東文化大学の非常勤講師(病院経営)も歴任、内閣府主催の国際交流事業や米国国務省主催のIVLPプログラムにも招聘される。2013年に執筆した論文「日本医療再生の具体的提言」は神奈川県保険医協会から表彰される。


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