ホスピタリティは“おもてなし”


コミュニケーションの第一歩となる挨拶。気持ちよい挨拶ができる人は、お金のためではなく、挨拶を行う意味や本質を分かっている
「おもいやり」「心遣い」「親切心」「誠実な心」「心からのおもてなし」。そういった歓待の心。お客様を喜んで迎える。心、気持ちが大切です。一流のホテルが素晴らしいのは、ホテル経営者から従業員まですべてがサービスに対する同一の「使命感」を持っているからです。
サービスの原点
先日、タクシーに乗ったところ、「あっ、この人はホスピタリティ・マ インドがある」という運転手さんに出会いました。やっていることは、他の運転手さんと同じなのですが、話し方にしても、おつりの渡し方にも心がこもっている。頭でっかちの作られたサービスではなく、心、気持ちから出たもの。豊かさや優しさが私に伝わってきました。これこそがホスピタリティ。サービスの原点です。
私の考えるサービスの原点は、1966年に留学したアメリカのニューヨーク州の山奥にあるポールスミス大学というホテル・スクールにあります。この大学で、気持ちの良い挨拶、約束した時間は必ず守る、人に不快感を与えない清潔な身だしなみ等、あたり前の事をあたり前にする、物事の本質、原点を徹底的に叩き込まれました。
中でも特に物事を、心、気持ちで受けとめ、それを心、気持ちから行動に移していく、ホスピタリティの大切さを理解できたことが、自分の人生に於いて大きな収穫となりました。
その後、当時アメリカ西海岸のホテル・レストラン王と呼ばれる、マー ク・トーマス氏に出会い、大学で学んだ知識を体験から裏付けようと、3年 間に渡って教えを乞い日本へ帰国。そこから日本へ、ホスピタリティを紹介する人生がスタートしたのです。
当時の日本には、ホスピタリティという言葉はありません。それどころかサービス業や飲食業という言葉もありません。客商売に水商売と呼んでいました。そのため、長野のとある街ではホスピタリティをチョコレートの一種と勘違いされたこともありました。
それでも、日本のサービス産業の進化と共に、ホスピタリティの言葉も 少しずつ浸透してゆきます。とくにバルブ後のCS(顧客満足度)向上活動の中で大きく伸びたと思います。私が1997年に書いた著書『ホスピタリティ~サービスの原点~』も、その一助になっているはずです。
形ではなく、心、気持ち
それでも、ホスピタリティの意味は何か? と今でも聞かれることがあります。そのときは「日本の“おもてなし”と同義です」と答えています。サービスを行う人の意識のあり方です。「おもいやり」「心遣い」「親切心」「誠実な心」「心からのおもてなし」。そういった歓待の心。お客様を喜んで迎える。心、気持ちが大切です。
ホテルのサービスでいえば、日本の場合、「水は右から、お皿は左からサーブする」というスタイルがあります。でも、本当は、右でも左でもかまいません。形ではなく、心、気持ちからの行動であることが必要です。それがなければ、作業になってしまいます。
また、それを実行するときはコミュニケーションも大切です。
たとえば初めてあった方をもてなしたい。でも、最初は相手のことを何も知りませんからゼロ。挨拶というコミュニケーションからスタートします。そして、相手を知り、自分を知ってもらう。何を考えているのか、どういう人なのかを互いに理解できれば、信頼が生まれます。愛情もそうやって育まれる。心の共有ができるほど信頼や愛情が深くなる。一流のホテルが素晴らしいのは、ホテル経営者から従業員まですべてがサービスに対する同一の「使命感」を持っているからです。
コミュニケーションの第一歩となる挨拶。そこで気持ちよい挨拶ができる人は豊かさを持っているのではないでしょうか。それは、お金のためではなく、自分の仕事の社会的な意義や役割から、挨拶を行う意味や本質、つまり「使命」を分かっている。そこに豊かさがあるのと私は思います。
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