患者に選ばれた病院だけが存続する


医療施設のブランディング
医療施設の増加に伴い、患者を奪い合う、過当競争状態の医療業界において、患者に選ばれる医療施設に進化するためには何が必要なのか、宇都宮賢二氏(2DOGS代表取締役CEO)に聞いた。
発信と言動の一致がブランドを確立させる
医療業界では顧客である患者に対して、各医療施設の独自価値の訴求や、患者が本当に知りたい情報やサービスを的確に提供する、といった民間企業では当たり前に行われている「患者(顧客)視点に立ったサービス業」としてのアプローチは、ほとんど行われてきませんでした。しかしながら、少子高齢化が進み、既存の保険システムの維持が難しくなってきた現在、国として、医療業界にもメスを入れ始め、業界自体は大きな転換期にあります。
その一つの解決策として、患者から選ばれるためにはどうしたら良いか、ということを試行錯誤し、積極的にブランディングを行う医療施設も段々出てきています。これからも、この動きは確実に広まっていくと考えます。
私自身、10数年にわたり、リテールや建築を中心にブランディングのお手伝いをしてきました。選ばれる企業は、当然ながら「選ばれるために必要なことは何か」を常に模索しブランディングしています。ちなみに私は、”ブランド”とは「経済的合理性を超えた、売り手と買い手の、感情的な絆」と理解しています。競争の中で健全に選ばれていく為にはブランドが必要不可欠であり、ブランドを確立/維持していく為の包括的かつ持続的な行為が”ブランディング”であると定義しています。そして、ブランドとして認識されるためには、対外的な発信と内部のスタッフや関係者の言動(発言と行動)の一致が確立されることが非常に重要で、両者は不可分で一体的なものです。
私がお手伝いした今最も勢いのあるLCC航空会社のブランド開発プロジェクトでは、社長が発信する企業哲学に一致したデザインと、客室乗務員のホスピタリティ溢れるサービスやお客様へのサプライズ企画などの日々の言動により、「航空会社を選ぶならここ」という、まさに選ばれるブランドが確立されています。
理論としての「知識」では足りない使える「知恵」を持つことが重要
ブランディングにおいて、もっとも重要なことは独自価値(コアバリュー)です。これを徹底的に掘り下げ、研ぎ澄ましていくことが競合との差別化につながります。また、たくさんのブランドの参考本が溢れ、多くのブランディング会社が乱立する現在において、ブランディングを本当に成功させるには、単なる理論としての「知識」を持つことではなく、リアルビジネスにおいて使える「知恵」を持つことです。実践に基づいた、使える「知恵」を状況に応じて引き出し、“具現化する”ことこそ重要であると考えます。具現化に際しては、関係する人たちをチームとして巻き込み、実地を交えた包括的なブランディングを行うことが、医療経営を成長させる大きなカギとなります。