コラム

犬が小児病院の常識を変えた。

2017/02/16 編集部
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犬が小児病院の常識を変えた

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小児がんなどの難病で、子どもが長期で入院しなければならない場合、子どもが受ける精神的なダメージは非常に大きい。闘病中の子どもに、少しの時間でも笑っていて欲しい。安らぎや楽しみがあってほしいー。
そんな思いで導入されたファシリティドッグが、小児病院の常識を変える。

小児がん、難病の子どもたちへ
辛い入院生活にとびきりの笑顔を

日本の医療レベルは、世界でも最先端だ。しかし、患者や家族のサポートという面では、欧米に立ち遅れていると言われている。

「特に小児がんなど、長期入院が必要な場合、入院生活は子どもにとって非常に辛く苦しい経験になることが多いのです」と説明するのは、シャイン・オン!キッズ(東京都中央区)の プログラムコーディナーター/博士(農学)村田夏子氏。

小児科医でなくても、子を持つ親なら、その入院生活についてすぐに想像がつく。特に小さな子どもは、楽しいこと、おもしろいこと、母親がそばにいることを全身全霊で求める。

しかし、難病で長期入院を強いられる子どもは、辛い治療による身体的なストレスだけでなく、単調な毎日の中で、食べるものも制限され、家族が側にいないという強い心理的なダメージも受ける。

「子どもが難病にかかった場合、親のメンタル的な負担も深いものです」と村田氏。

「子どもにできるだけの治療を受けさせたい」とう一心で、看病の合間に寝る間を惜しんで病気の勉強をする親 が多いが、親も身体的にも精神的にも 消耗していく。兄弟がいる場合、兄弟 は病棟に入れないことが多いので、母親は入院している子どもにかかりきりになるのも難しい。

親だけでなく医師も看護師も必死の思いで治療にあたる。こういった張りつめた環境の中で、笑わなくなってしまったり、円形脱毛症、うつ病や不安障害になってしまう子もいる。

闘病生活の中で、ちょっとした気晴らし、甘えられるお友達や希望が、どんなに子どもにポジティブな影響をもたらすかー。

「こういった小児がんの子どもたち の入院生活の現状を変えようと、私たちは2009年に“ファシリティドッグ” を日本に導入しました」。

そして導入から7年間、シャイン・ オン!キッズは一度の医療事故もなく、入院中の子どもたちの笑顔を引き出している。

ファシリティドッグが触れ合う子どもたちの数は、年間3000人程度

ファシリティドッグが触れ合う子どもたちの数は、年間3000人程度。ほぼ全ての病棟で活動をしているが、特に精神科や心療内科からの要望が増えてきている。

シャイン・オン!キッズは、日本の病院で、自身の子どもを小児がんで亡くした外国人夫妻 が「日本の小児がんの子どもに笑顔を」という思いで、設立した

シャイン・オン!キッズは、日本の病院で、自身の子どもを小児がんで亡くした外国人夫妻 が「日本の小児がんの子どもに笑顔を」という思いで、設立した。

ファシリティドッグとは? セラピードッグとの違い

ファシリティドッグとは「ある特定の病院に常勤して、職員の一員として活動する犬のこと」だ。

月に数回、病院などを訪問するセラ ピードッグとファシリティドッグの大きな違いは、
(1)犬自体が訓練を受けたプロフェッショナルであること
(2)犬をハンドリングするハンドラーが医療従事者であること
(3)一つの施設に常勤で医療スタッフの一員として働くこと
などがある。

日本全国を探しても、病院内で常勤で働く犬は、シャイン・オン!キッズ のベイリー(9歳、オス)とヨギ(5歳、オス)の2頭のみ。

シャイン・オン!キッズでは、ファシリティドッグと4年以上の臨床経験のある看護師のハンドラーをチームとして、病院に派遣している。2010年に静岡県立こども病院が日本で初めてフ ァシリティドッグを導入。2012年からは、神奈川県立こども医療センターでも導入されている。

「最初は高い感染対策が求められない外科病棟などから慎重に導入が進みました。現在は、静岡県立こども病院・神奈川県立こども医療センターのどちらの病院でも、ほぼ全病棟で活動を許可していただいています」。

看護師が目を丸くするほど子どもの力を引き出す存在

ベイリーとヨギには、子どもの力を引き出す不思議な力がある。医師・看護師だけでなく親でも何ともできずに苦心している問題を、解決してしまったというエピソードは数知れない。

「辛い治療により何か月も笑わなくなっていた子が、ベイリーに会ったとたん笑った」「自分で体を動かす気持ちがなかなか出ない子が、ベイリー見たさに上半身を起こす」「(精神科の患者で)人と会話をしない子どもが、ヨギには話しかけた」ファシリティドッグの導入当初、医師と看護師はその光景に目をまるくしたという。

具体的な業務例はベッドでの添い寝、薬が飲めない食事が食べられない子どもの応援、手術室までの移動の付き添い、麻酔が効くまでの付き添い、ターミナル期の子との添い寝、歩行リハビリテーションへの同行、患者との活動に必要な情報収集のためのカルテ 閲覧など多岐にわたる。

「子どもたちだけでなく、お母さんや家族にも“私自身も癒されたよ!ありがとう”と、言って貰ったりメールを貰うことも多いですね」と村田氏は話す。

特にターミナル期が近づくと、親にも医療スタッフにも当事者への心象に配慮して葛藤も大きくなる。そんな時 にベイリーが側に来て寄り添ってくれ れば、温かい時間が流れる、子どもが 笑顔になる。親には「ベイリーがいたからどうにか過ごせました」「最後ベイリーと過ごせたから良かったです」と言ってもらえることも多いという。

ベイリー、大好き 〜セラピードックと小児科病院の子どもたち〜

『ベイリー、大好き〜セラピードックと小児科病院の子どもたち〜』

〈編集者からのおすすめ情報〉
東海地方の小児医療の中心的役割を果たしている、静岡県立こども病院に入院するこどもたちに密着取材しました。PICU(小児治療室)、手術室などにファシリティドッグが出入りする光景は驚くものがありますが、同時にその犬と過ごすこどもたちの笑顔に心が温かくなります。つらい治療中にもかかわらず、こどもたちとそのご家族が取材に応じてくれたのは、ベイリーが大好きで、ベイリーに救われていることを知っているからこそ。ベイリーが小児病院に常駐することでもたらされるものは、とても大きいのです。

文/岩貞るみこ 写真/澤井秀夫
出版社/小学館 発売/2011・11 定価本体1,500円+税
(日本図書館協会選定図書、全国学校図書館協議会選定図書)

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