犬が小児病院の常識を変えた。

2017/02/16
by 編集部

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癒しの力だけではない、医療スタッフの生産性も向上

小児がんの子どもたちに多い検査の1つに骨髄穿刺がある。マルクと呼ばれるこの処置は、激痛を伴うと言われており、大人でも非常に辛いものだ。狭い処置室の中で子どもの体を固定して太い針を刺す。

子ども達は処置が痛いのがすでに分かっているので、非常に怖がる。泣いたり、嫌がって走って逃げ回ったりする。ファシリティドッグ導入以前は、処置室に入るのを怖がって、自分の足で入れない子どももいた。

それがベイリーやヨギがいれば、処置室へ移動が一変する。

「怖くても子ども自身で頑張ろうと思えるように変えてしまうファシリティドッグの力はすごいと思います。子どもがぐずったり嫌がる時間が減ることによって、スムーズに処置を行える ので、医療チームの生産性が上がることも、導入による大きなメリットです」。

夜勤明けなどに、子どもが薬を飲みたくないとぐずると、看護師の「早く飲んで欲しい」という想いが増す。裏腹に、子どもは逃げ出して抵抗する。そんなときにベイリーに応援を申請す ると、「今までの苦労は何だったの?」とスッと飲んでくれることもある。

ファシリティドッグが施設に1頭いることで、子どもだけでなく、家族、医療スタッフ、全員に良い影響力があると考えられている。

感染などの医療事故は7年間で0件

導入を検討する病院にとって、壁になるのが感染に対する過剰な不安だ。シャイン・オン!キッズでは、日常・ 出勤前の準備、勤務中の管理、病院内での規則を細かく定め、徹底的な対策 を行っている。このことにより、シャイン・オン!キッズでは過去7年間、感染事故は一度も起こっていない。

「犬がいたから感染率が上がった、こんな事故が起こったなどの報告はこれまで一切ありません。病院側の管理 職の方と定期的に評価会議を設けてい ますが、“導入によるトラブルは何もない”という報告を何度もいただいています」。

また静岡県立こども病院の研究報告でも「ファシリティドッグ導入は感染対策上に問題ない」と報告されている。

「こういった実績があっても、感染の問題への不安がネックになってファ シリティドッグの導入が進まないこと が多く、悔しい限りです」と村田氏は吐露する。

休憩中は事務局内 や院長室内を自由 に出入りし、スタッフに愛されて過ごしている。

ファシリティドッグは、規定に より1時間勤務毎 に1時間の休憩を 取る必要がある。

休憩時間にはトイレや衛生管理対策 などを行ったり、ハンドラーが雑務をこなしたりする。

ハンド ラーの森田さんとベイリーの部屋が、病院の事務局内 に設けられている。 (神奈川県立こども医療センター)

休憩中は事務局内や院長室内を自由に出入りし、スタッフに愛されて過ごしている。ファシリティドッグは、規定により1時間勤務毎に1時間の休憩を取る必要がある。休憩時間にはトイレや衛生管理対策などを行ったり、ハンドラーが雑務をこなしたりする。手術室への移動同行、鎮静同伴があれば臨機応変に対応するが、1日の基本の勤務時間は3時間ほど。ハンドラーの森田さんとベイリーの部屋が、病院の事務局内に設けられている。(神奈川県立こども医療センター)

ファシリティドッグ導入に立ちはだかる課題

2つの子ども病院で、大きな成果をあげているファシリティドッグの導入が進まないもう一つの要因は、資金面での課題だ。

シャイン・オン!キッズのファシリティドッグプログラムの導入には、初年度経費として約1200万円、継続運営費として2年目から年間約900万円のコストがかかる。初年度の経費については、これまではシャイン・オン!キッズが調達した寄付金による無償提供を基本としてきた。

つまり2年目からの継続運営費約900万円を毎年負担できる病院なら導入できることになる。しかし、プラスでお金を出してまで導入に踏み切れる病院は少ない。

「ファシリティドッグの成果、メリットについては、現場を見ていただくのが何より一番説得力があると思います。少しでも興味を持っていただいたら、ぜひお問い合わせください」と、村田氏は力を込める。そして、一般の方も含めて多くの方にファシリティドッグを知ってもらいたいという。

「小児科の先生でなくても、子どもを持つ医療関係者の方でしたら、ぜひ寄付などの形で応援していだけるととても嬉しいです」と訴えた。

ベイリーはアメリカで特別な訓練を2年程度受けている。

年1回フォローアップ研修もあり、健康状態や業務状況、 ハンドラーのスキルなどのチェックを受ける。

ベイリーはアメリカで特別な訓練を2年程度受けている。 年1回フォローアップ研修もあり、健康状態や業務状況、 ハンドラーのスキルなどのチェックを受ける。

ハンドラーの森田優子さん(左)とベイリー、プログラムコーディネーター/博士(農学)村田夏子さん(右)。

ハ ンドラーの森田優子さん(左)とベイリー、プログラムコ ーディネーター/博士(農学)村田夏子さん(右)。

手術室への移動同行、鎮静同伴があれば臨機応変に対応するが、1日の基本の勤務時間は3時間ほど。

静岡県立こども病院 院長 瀬戸嗣郎氏。「子ども達と家族だけでなく、スタッフに対してもとても良い影響があ ります。6年間でトラブルは驚くほどない、というのが真実 です」と瀬戸氏は語る

静岡県立こども病院 院長 瀬戸嗣郎氏。
「子ども達と家族だけでなく、スタッフに対してもとても良い影響があります。6年間でトラブルは驚くほどない、というのが真実です」と瀬戸氏は語る

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