透析室を中心に省エネ59%大幅削減達成


医療法人飯田クリニック(福岡県大牟田市)は自ら省エネの必要性を掲げて、ZEB化(ゼロ・エネルギー・ビル/建物のエネルギー消費量を省エネや再生可能エネルギーの利用を通して削除し、限りなくゼロにするという考え方)した新病院を建設。一般病院に比べ6割もエネルギー使用量を削減した。その建設は地元事業者が中心となって強力に進めた。
地元事業者中心で透析クリニックの省エネに取り組む
その経緯を知らなければ、このZEB化病院は、大手企業が最新の技術、装置を駆使して造り上げた。そんな構図を多くの人たちは思い浮かべるだろう。しかし実際は全く違っていたのである。
施主は医療法人飯田クリニック。建設に関わったのは内記建築設計室、㈱今村組、㈲ニューメディアエンジニアリング、㈱コゥ・テック、それに三建設備工業㈱の5社である。三建設備工業は東京に本社のある大手設備機器メーカー。残る4社は地元企業である。
そしてここが肝心なのだが、建設業界でよくあるような元請け、下請け関係はこのプロジェクトには存在しないということだ。
「事業者はすべて横一線、フラットなプロジェクトチームです」
プロジェクトのリーダーで、建築施工を担当した今村組の社長、今村勝之氏である。「フラット」な組織。これだけでも希有なプロジェクトだということが分かる。
飯田クリニックは1969年に開業。病院が古くなったため新築ZEB化した。竣工は14年11月である。診療科目は腎臓・泌尿器・循環器内科、透析治療ができる地域の病院である。新築病院は透析床数が24床、入院床数は4床。延床面積は1688㎡、4階建てのRC構造である。
主な省エネ設備をざっとあげると、パッシブデザインによる高断熱・Low-e複層ガラス、天井放射空調、太陽熱利用、太陽光発電、再生水施設、ヒートポンプチラー、高効率空調設備、LED照明など。BEMSも導入している。
医療法人 飯田クリニック
理事長:飯田 收 、 院長:飯田 如
診療科目:泌尿器科・腎臓内科・循環器内科
福岡県大牟田市正山町29
設立:1969年
一般病院に比べ6割もエネルギー使用を削減
この病院がどれだけZEBとして優れているか。もっともわかりやすいのは使用エネルギー量だろう。
この病院は経済産業省のZEB補助金を受けている。申請したのは13年である。この時の削減計画値によれば、1㎡当たりの年間使用エネルギー量は導入前は3055MJだった。ちなみに新病院の延床面積は古い病院の約2.5倍もある。
では、完成後の実績値はどうなのか。15年1月〜12月までの1年間の実績値は、1㎡当たり年間使用エネルギー量が1229MJである。一般病院の平均値が2984MJだから、それに比べて約6割もの削減となったのである。
患者にとって快適な空間を実現する
なぜここまでの削減数字が可能になったのか。飯田クリニックの院長、飯田如氏の言葉にすべてがあるといえる。
「電気と水の削減、快適性。スマートクリニックを地元の企業でつくる。それは最初に決めていた」
これらが新病院のコンセプトである。重要なことは計画の段階から完成、病院の運用段階に至るまで、このコンセプトは変わることがなく継続されているという点だ。
なぜ省エネにこだわったか。飯田クリニックはいわゆる透析クリニックでもある。この病院のエネルギー利用の一番の特徴なのだ。透析治療には電気と水が大量に必要である。飯田氏はこう言った。
「省エネ、環境の問題は病院といえども聖域ではない。われわれもきちんと対応すべきだと思っていた」
もうひとつの重要なキーワードは快適性である。透析患者の一番の不満は「空調の風」というアンケート結果があるという。それは透析治療にあたって、解消すべきテーマだったのである。
建設チームは最初から地元と決めていたから、飯田氏の人脈を通じて建設メンバーが集まった。施主が病院の課題を明快に把握していること。そして、ぶれないコンセプトがあれば、あとはそこに集中していく。
連載記事一覧
Vol.1 | 医療施設のエネルギー消費量削減 |
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Vol.2 | 迫りくるリスク! 温暖化の影響と将来予測 |
Vol.3 | 明日の日本経済を 真剣に考えれば 省エネへの取り組みは 中途半端で終われない |
Vol.4 | 災害拠点病院としてのBCP機能も充実 |
Vol.5 | 透析室を中心に省エネ59%大幅削減達成 |