予防医学を課題にもつ地域社会に参画する

2016/10/06
by 西根英一

マッキャンヘルスコミュニケーションズ CKO(最高知識責任者)

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ビニールハウス

では、どうやって付加価値をつけるか? 実は、このもっともキーとなるポイントに、医師のマーケティング的センスが介入すべきと私は説く。医学的アプローチをできるのは医師ないし医学研究者でしかない。機能性表示食品の申請(消費者庁にエビデンス関係書類を届け、受理されると、60日後に販売ができる)には、特産品に含まれる成分の健康価値を同定していくための学術論文のレビューか、特産品を用いた臨床試験を実施するかのいずれかが求められるからだ。

しかし……。現状では、その重要ポイントの付加価値づくりに限って、隣県の商魂たくましい医学部研究室や大都市に事務所を置く代行業者に流れてしまう可能性が高い。であるから……。これらを地区医師会ないし医師個人として受けることができないであろうか。これが実現すれば、医師は治療医学に加え、予防医学を課題にもつ地域社会に参画することができる。まさしく、これこそがフィリップ・コトラーの言うところの《マーケティング3.0》の時代(共創的社会課題解決型の時代)の体現化である。
参考:《マーケティング1.0》の時代…量産化のマスプロダクション、マスプロモーションの時代、《マーケティング2.0》の時代…差別化のSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)の時代

EBNは医師のために最適化されたマーケットである

EBMの世界をつくり上げた医師が、EBNの世界を再現できないわけがない。世の中でもっともエビデンスの価値がわかっているのが、医師である。予防・保健を望む生活者に再現性の高いエビデンスのレベルを説くのも、適応性の高いエビデンスのグレードを説くこともできるだろう。

生活者は、いざ健康行動を起こすとき、たとえば、“病気に なりたくないから食事管理に努める”(prevention focus)、“健康になりたいから食事管理に努める”(promotion focus)のいずれかの焦点をもつ。損失回避のために健康行動をとる前者の場合、そのアドバイスには強い義務感を文脈に記述する必要があり、利得接近のために健康行動をとる後者の場合は、強い理想を文脈に記述する必要がある。ここに、EBNをうまく介入させるわけだ。この点が、“病気を治しに病院(医院)に来ました”という単一焦点の治療医学の世界にEBMをかませるやり方とはいくぶん異なる留意点であろう。この生活者の焦点モデルもまた、マーケティングのなかの消費者行動学から応用したコミュニケーション手法である。

さて、生活者は消費者だから、当然、時代の変遷とともに健康機能性にもブームがある。

健康日本21(第一次)では生活習慣病に係るフィジカルヘルスに重点が置かれていた。体脂肪、中性脂肪、内臓脂肪、コ レステロール、血糖値、血圧などが生活者の健康項目に掲げられた。現行の健康日本21(第二次)では、これらに「休養」と「口腔衛生」が加わった。これにより機能性の方向性に、睡眠健康に代表されるメンタルヘルスや、噛むこととブレインヘルスの関係にも注目が集まる。はたして、あなたの街に、睡眠健康に寄与する素材はないだろうか。噛むことを楽しむような食材はないだろうか。

診察室という個室を持つ医師にとっては、その一室に「予防・保健相談室」(仮称)を開設することに大きなハードルはないはずだ。いまこそ、医師はマーケティング的視野を持ち、地域社会に貢献する予防医学的起業を実行しよう。

マーケティング精神をもつ者のハートはいつも熱い。このシリーズを通して、医師のココロにももう一つの熱い火がともることを期待したい。

さて、そろそろどこかの医師会から呼ばれる日も近いかな。医師会と自治体産業振興課(ものづくり課)と合同開催の学習会でもしませんか(笑)

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著者

西根英一 氏

マッキャンヘルスコミュニケーションズ CKO(最高知識責任者)

健康・医療・美容のビジネス開発、マーケティング戦略とコミュニケーション設計を専門とする。厚労省「すこやか生活習慣国民運動」(健康日本21)の推進室室長等を歴任。近著に、『生活者ニーズから発想する健康・美容ビジネス「マーケティングの 基本」』(宣伝会議)


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