コミュニケーションデザインが医療のイノベーションを促進する ~医療イノベーションにおけるコミュニケーションデザインの可能性~

2019/05/20 神山 資将
by 神山資将

一般社団法人知識環境研究会 代表理事

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「医療」と「イノベーション」という語はかなり違和感がある組み合わせらしい。「医療は人助け」いうイメージが強すぎ、イノベーションというアグレッシブなニュアンスがある語は不謹慎なものとして受け止められてしまうのだろう。

医療こそイノベーションのメインステージ

 元来、イノベーションは、経済的もしくは社会的な便益を得られるような、新しい知識生産物をいう。医療関係者にとっては違和感のある語かもしれないが、医療の分野こそ近代のイノベーションのメインステージだった。例えば、「細菌学の父」と呼ばれている、フランスの細菌学者パスツールは、ワクチンや低温殺菌法を開発した。彼の研究成果によって多くの疾病から人類は解放されたわけで、イノベーションの典型例である。このように、今後も医療イノベーションは優先度が高いイノベーションであり続けるだろう。
 近頃ではサービスのイノベーション(service innovation)も注目されているが、ナイチンゲールの成果はサービス・イノベーションであった。モノのイノベーションがあれば、必ずサービスのイノベーションも付随して生じるものだ。例えば、小型化された医療機器や革新的なウェアラブルデバイス、新しい診断ツールが開発されたとしても、患者や利用者を不安にさせたり、誤った使用法で問題を見過ごされたりすることがないようサポートするサービスが必要である。

 患者や利用者の心理を踏まえたコミュニケーションデザインができてこそ、革新的な薬品・機器も価値を発揮することができるのだ。特に、医療の場面でのコミュニケーションデザインで大切にすべきことは、互いの思考を理解するためのプロセスである。

医療者間コミュニケーションの支援・教育が鍵

 これはサービス提供者と受容者間ばかりではない。短時間に協働しながらサービスを提供するスタッフ間のコミュニケーションにおいても同じである。図2は訪問看護の場面における多職種間コミュニケーションについての筆者の研究データである。

筆者は、短期的な二者間でのコミュニケーションの場合、深いレベルの議論はせず、目前の問題解決を目指す(相手の意見をそのまま受け入れる)のではないかという想定を持っていたが、結果はそれぞれの立場の発言も多く、深い議論もされ、約7割が議論を通じて問題解決を図っていた。
 2016年に行ったこの研究は、医療のサービス提供における、事後のリフレクションを含めたコミュニケーションの重要性を示している。コミュニケーションを支援することで、医療イノベーションが促されるだろう。
 医療のコミュニケーションデザインをイノベーションという視点から教育しようという萌芽的な取り組みとして、宮崎大学医学部・北陸先端科学技術大学院大学・久留米大学医学部が連携して提供している医療サービス・イノベーションコースなどがある。未来の医療者を育てる教育機関では、イノベーションに対する固定観念にとらわれず、コミュニケーション教育を取り入れつつある。メディカルコミュニケーションは、医療イノベーションの成否を左右するキーなのだ。

著者

神山 資将

神山資将 氏

一般社団法人知識環境研究会 代表理事

国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科博士前期課程修了(修士(知識科学))。独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 産学連携研究員、財団法人政策科学研究所研究員を経て現職。医療サービス科学の研究の一環として、思考スキームに基づいた多職種連携研修を実施中。


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