feasibilityの追求で医療の新たなエコシステムを拓く

事業成功のカギは「マルチタスク」と「責任感」
同社では、通常1年以上かかるであろう特許取得から医療機器製造販売許可取得、安全性試験終了までの手続きを約4ヶ月という驚異的なスピードで実現した。この実行力の源泉には、原氏の卓越したスケジューリング能力がある。ポイントは、プロジェクトの全体像を俯瞰して律速段階を把握することと、各プロジェクトの律速段階をコントロールしてマルチタスク化することだ。
「複数のプロジェクトを進めるのは、料理上手な方が並行して何品も作って食卓に出すのと似ています。“二兎追う者は一兎も得ず”と言われますが、今の時代はマルチタスクをできる人が新しいアウトプットをしています。マルチタスクは成功の条件のひとつです」と語る。
「産業革命で馬車と蒸気機関車を融合し車を生み出したように、世の中を変えるようなイノベーションは異なる分野の融合から起きます。医療の世界でも、アカデミックなアプローチとビジネスのアプローチを組み合わせることで新しい何かが生まれるはずです。これまでの日本では、アメリカで流行ったものを導入する“タイムマシンビジネス”が一般的でしたが、もう通用しないでしょう」。
そして、起業・事業経営においては責任感が最も重要だと続ける。「責任感を持って、諦めずに続けられるかどうか。臨床研究のプロジェクトを進めるときにも、強い責任感を持つ人しか選びません」と原氏は榛葉氏を見て頷く。
現在は大阪と東京の2拠点を構えるmediVR。東京での拠点はハードウェア系のスタートアップが集うインキュベーションスペースだ(左:榛葉喬亮氏、右:原正彦氏)
根底にあるのは臨床への思い
臨床医、研究者、研究支援者、起業家。4つもの事象に取り組む理由は何か?「4つの事象に見えるかもしれないが、私にとっては1つの事象」と原氏は言う。
「結局のところ、臨床が好きなのです。私のなかにあるのは、すべては患者さんをよくしたい、という思いです。そのためには、アカデミアの場での発表もプロダクトの開発も必要不可欠。ひとつの目標に向かって、いろいろなアプローチをしているのです」。
原氏は今後、臨床研究での成果を活かした呼吸機能測定器や、個々人で異なる薬効を測定できるアプリ・ソフトの開発、せん妄を対象にした創薬領域などへの展開も予定している。
「私は“feasibility(実現可能性)の高さ”を意識しています。長期の構想も大切ですが、“今の技術で実現できるのか”というfeasibilityの視点を持って進めることで、単なる夢物語に終わらせずにアイディアを実現させれば、患者さんをよくすることも世の中を変えることもできるはずです」。
原氏がもうひとつ大切にするのは、そのアイディアが患者さんに価値を提供できるか、医療の向上に資するかという“クリニカルインパクト”だ。効果とコストのバランスが悪ければクリニカルインパクトがあるとは言い難い。
「いいアイディアがあるのに形にできていない医師も多い。そういった方がアカデミアで実績を積め、ビジネスでも成功できる、そして患者さんのためになる、というような、若い医師がわくわくできる仕組みをつくっていきたい」。
新たな医療のエコシステムを着々と切り拓く原氏から目が離せない。
株式会社mediVR
代表取締役社長 原 正彦
2016年6月設立
事業内容:VR等映像化技術の応用による医療機器・医療システムの企画・開発および販売、特許6200615技術および人工知能技術を用いた運動リハビリテーション提供プロダクトの開発 ほか
- 1
- 2