良質な医療が適切に理解されるために、医療の世界に「マーケティング」を

“Evidence Based PR”を探求する
とはいえ、従来こうした分野は広報介入とその成果の因果関係の証明が難しく、広報成果の再現性も乏しいため、病院関係者にはなかなか受け入れられない側面がある。そこで竹田氏は、社内に「先端医療コミュニケーション研究所」を併設し、医療広報を「ロジックで」明らかにしていこうと研究を進めている。
そして、医師にも馴染みのある概念であるEBM(Evidence Based Medicine)の考え方を下敷きにした「Evidence Based PR:根拠に基づいた広報」をコンセプトに社会医学的アプローチから病院広報の研究を進めている。「インターネットを通じた情報曝露が、実際の人間行動にどう影響するか? 学会参加、病院受診、求人応募などの行動変容につながるかを明らかにしたかった」と竹田氏は話す。
現在、各地の総合病院や専門学会が竹田氏の支援を受けているが、多くで広報アウトカムが改善し、ある病院では人材会社を介さずとも、webサイトを通じて求職者から多数の問い合わせが来るようになったという。
少子高齢化や医療費の削減など、医療機関にとって“生き残り”は今後より切実な課題となることが予想される。「自らの病院を患者や医療職に正しく知ってもらい選ばれるためのマーケティング手法を、個々の病院にフィットしたかたちで提案していければ」と語る竹田氏
「人が好きになるのは、いつの時代も人間」
Evidence Based PRに基づく新たな病院広報の形を広めるべく、竹田氏はこの3月に医療関係者と他業界のマーケティング専門家を集めた医療広報シンポジウム「病院マーケティングサミットJAPAN 2018」を開催した。
開催にあたり、竹田氏はこれまでの活動から、ひとつの答えを導きだしていた。それは、「ビッグデータとかスマホ時代とかこれだけ大きく時代が移り変わっても、webユーザー行動分析をしてみると注目度が高いコンテンツには必ず”人”の気配がする文章や写真が入っている。結局いつの時代も人間が一番好きなのは人間ということですね」。そこで、「病院が生き残っていくためには、インターネット情報発信を患者、医療職とのオンラインコミュニケーションと考えて真摯に向き合う必要がある。スマホ画面の先にいる一人一人の患者、医療職に対する誠意が病院広報に問われている」という思いを各セッションに込めたという。
会場には約250名の参加者が集い、病院広報の先進事例や、マーケティング先進業界の企業の取り組みに熱心に聴き入っていた。
3月末に福岡県で開催された「病院マーケティングサミットJAPAN 2018」の様子。会場には医師や医療機関の事務関係者など250名あまりが集まり、病院マーケティングの基礎から先進事例までを学んだ
病院マーケティング領域のフロンティアに立ち続けたい
前例の少ない、医療でのマーケティングの活性化に挑む竹田氏。「実際の医療も病院広報も一番大事なのは、目の前のひとりの患者さんを救いたいという医療人としての根幹の気持ちです。それぞれの病院で働く医師や看護師が、未だ見ぬ患者さんを救うために自分たちの医療をしっかり伝えようと本気になれるかどうか。医療のプロフェッショナルたちが真剣に情報発信に向き合ったとき、モニターを介しても紙面を介しても届いた情報は必ず患者さんを動かします」と真剣な表情を見せる。
そして、「先端医療コミュニケーション研究所(Frontier Institute of Health communication)」の「先端(Frontier)」に込めた思いをこう語る。
「研究という領域にあるのは上と下の関係ではなく、前か後ろかの関係だと思っています。学問の常識は100年前と今では違うし、今と10年後も違う。知るべきことは常に先にあるのです。出した成果に満足することなく、いつの時代も常に先頭に立ってフロンティアを切り開いていくという覚悟を持って、私たちは医療マーケティング研究に取り組んで行きたいと思っています」。
竹田氏の医療とマーケティングをつなぐ取り組みは、医療者と患者をより密接につなぐ貴重な架け橋となる。患者と医療者、双方が真の医療を手に入れる日も、そう遠いことではないかもしれない。
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