現場の“Pain”を解決し、医療の世界を変える

2019/02/11 編集部
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現場の“Pain”を解決し、医療の世界を変える

田 真茂氏(でん・まさしげ)
株式会社ドクターズプライム 代表取締役社長(医師)

聖路加国際病院にて初期研修を行い、研修終了時に優秀賞を受賞。都内随一の救急対応数を誇る同病院の救命救急センターにて当直帯責任者として“断らない救急”を実践する。2016年より株式会社メドレーに参画。市中の二次救急病院で救急当直をした際に、救急車が断られるという課題に直面する。断らない救急医療を実現するという想いから2017年4月より「断らない医師募集サービスDr.’s Prime」を開始。経済産業省主催の始動Next Innovator 2017(グローバル起業家等育成プログラム)にて、全国242名の起業家のなかからシリコンバレー選抜、最優秀賞発表者に選出。

「救急車たらい回し問題」は医療現場で長く問題とされている。人手不足による受け入れ体制の脆弱化や現場医師の疲弊、コンビニ受診など課題は重層的で、根本的な解決策が待たれる状況だ。このような状況を身をもって感じたひとりの医師が問題解決を目指して事業を立ち上げた。救急の現場から「世の中を変えたい」という思いのもと、救急医療の再構築に挑む思いを聞いた。

救急医療の前線で感じた、日本の医療の大きな課題

ドクターズプライムを立ち上げ、救急医療の課題に向き合っている、田真茂氏。医師として救急医を志していた田氏は、聖路加国際病院で研修医となったときに、大きな衝撃を受けた。

人を助けたいとあふれる熱意を持っていたはずの医師たちが、過重労働によってモチベーションを失っている。その過重労働を引き起こすひとつの要因となっていたのが、救急車たらい回し問題だ。

「本来、聖路加国際病院は、重症疾患や高度外傷などの患者さんを診療する三次救急病院です。そこに、二次救急や一次救急の患者さんも多く運ばれていたため、本来診るべき重症患者さんに適切な医療を提供できていない現状があると感じていました」。

救急車で来院する患者の約75%が二次救急医療機関に搬送されている。二次救急医療機関が適切に患者を受け入れられる体制を維持していくことが重要た

救急車で来院する患者の約75%が二次救急医療機関に搬送されている。二次救急医療機関が適切に患者を受け入れられる体制を維持していくことが重要だ
「救急医療体制の現状と課題について」より作成(厚生労働省医政局地域医療計画課調べ〔平成27年度実績〕)

なぜ、他の病院で受け入れることができないのか。田氏が二次救急を受け入れる現場へ行くと、そこには日本の救急医療が抱える大きな課題があった。

二次救急病院は、そもそも当直医の数が足りていないところが多い。とにかく医師に来てもらえるだけでありがたい、という状況だ。そんな環境で医師が救急車を断ったとしても、病院側が受け入れを強く要望することができないというのだ。
救急車を断ると、病院としては収入が減ってしまう。経営層はこれに対して危機感を持っているが、現場の医師と課題意識を共有できていないことも問題であったという。

「経営層が設定した目標を達成できなくても、現場が何か言われるわけでもないし、給料が下がるわけでもありません。経営層と現場で目的意識が共有できていないところ、評価制度がないところに問題があると感じました」。

こうした救急医療の現状を問題だと感じている医師が全くいないわけではない。しかし、多くは「そうなるのも仕方がないな」と流してしまったり、文句を言うだけに終始しているのが現状だ。「こうすべき」だと思っていたとしても、あまりに複雑な問題で、解決の糸口がわからないからと実行せずにいる人がほとんどだ。

この課題を解決するため、田氏は起業を決意する。救急医を志して医師になり、自分自身が果たすべき使命を模索していた時期もあったというが、今はこの仕事にやりがいを感じているという。

「50年、60年と長い人生のなかで、臨床現場でずっとやっていくよりも、もうちょっと違った角度から世の中を変えていきたい。そう思っています」。

起業を意識して気づいたこと 〜医師の思考法と経営者の思考法

起業を決意した田氏だったが、すぐに事業を起こすことはせず、まずは医療系ベンチャー企業の事業立ち上げに参画した。医師としての経験しかなかったため、まずは経営に関する知識を現場で学ぼうと考えたのだ。

そこで田氏は、“医師としての頭の使い方”と“経営者としての頭の使い方”がまったく異なるということに衝撃を受ける。医師は、これまでに蓄積した膨大な知識を、患者さんに合わせて適用していくことに頭を使う。しかし、経営者・起業家はそうではない。これまでなかったものを作り出す、いわばゼロからイチを生み出す作業だ。見つけた課題に対して、必要な人材を集め、費用面も考慮しながら事業を組み立てていく。こうした一連の行為は、臨床にいた頃には経験しなかったものだった。

「ビジネスの現場に行って、経営者の意思決定を目の当たりにして初めて、これが“頭を使う”ということなのかと思いました」。

そうした試行錯誤を経て、田氏はドクターズプライムをスタートした。目の前にいる一人ひとりの患者さんを助けるのではなく、現場の課題を解決するシステムを整備し、結果的により多くの患者さんを救っていくことが狙いだ。

起業にあたって田氏は、Tech Driven(技術ありきの事業)ではなく、Pain Driven(現場課題ありきの事業)を目指すことが重要だと考えている。技術ありきで事業を考えても、そこにPain(減らしたい・なくしたい課題)がなければ、誰もそれを必要とすることはない。せっかく費用をかけて製品やサービスを開発しても、意味がないものになってしまう。

「医療現場には、Pain が非常に多い。それを把握したうえで、どうシステムとして解決できるかを仮説検証していくことが重要だと考えています」。

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