語り合いが生む「信頼」の医療

2016/09/29
by 編集部

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クリニック待合室

信頼される医師には「受容」「共感」「臨床能力」がある

では、患者が何でも話してくれるような医師になるには、どのようなスタンスが必要なのか。奈良氏は、医師と患者、その家族との間に良好な信頼関係が築かれるために、医師が持つべき要素として「受容」「共感」「臨床能力」を上げている。「受容」は医師が患者を素直に受け入れること。「共感」は医師が患者の痛みや苦しみを共有すること。「臨床能力」は、医師として身につけておくべき態度、臨床技能、知識のこと。診療の入り口で患者から多くの情報を得るには、「コミュニケーションがしやすそう」と相手に思われることがもっとも大切と語る。

「良い医者とは、いかにも話を聞いてくれる、あるいは説明してくれそ うな雰囲気を醸し出させる人だと思います。医療において知識は医者が上ですが、お互い人間ですから、その意味では医者と患者は対等と思ってもらわないといけません。そのためにも、初診の患者さんとはできるだけ時間をかけてゆっくり話がしたいですね」

患者にもいろんな性格の人がいる。自らどんどん話す人もいれば、ほとんど話さない人も。口下手な人から上手に話を引き出すのも医者の技量だ。医者と患者は「友だち」にまではならないにしても、気さくに何でも話せる関係が理想。その関係をつくるためにも会話は大事になる。

「コミュニケーションでは言葉に加え、非言語的なものも重要です。目線の配り方、表情、動作など。最近は残念ながら医療訴訟もまだ数多くありますが、そこには医者が悪い例というより、多くは医者への不信感から出たことだと思います。不信感が生じる理由のほとんどは、コミュニケーション不足ではないかと思います」

奈良氏は40年以上医者として活躍しているが、「幸い訴えられることは なかった」と語る。もちろん予測した通りの診療にならなかったこともあったが、いつも気をつけていたことは、何でも丁寧に説明して、普段から積極的にコミュニケーションを取るようにしたことだ。

「患者すべてが治るわけではなく、中には亡くなったり、予想外の展開になることもあります。『1週間で治ります』と言っていたのが1 ヵ月もかかってしまったり、『治りますよ』と言っていたのに合併症を起こして亡くなってしまうこともあります。もちろん逆のこともあり、想定していないことが医療の現場では起こることがしばしばです。そんなときに『話が違うじゃないか』と言われないためにも、普段からきちんと話して、信頼関係を築いておく必要があるのです」

最近では大学医学部でも患者とのコミュニケーションについてしっかり教えている。「患者に会ったときは挨拶する」「廊下を歩いているときも挨拶する」「初めて会う人には自分から名乗る」などと具体的な行動を指導している。

「昔はパターナリズムといって、自分の言うことを聞いておけばいいといった接し方をする医師もいましたが、今はそんな時代ではありません。患者が納得して治療を受ける時代ですので、医者も患者の立場になった医療を行うようになっています。その意味でも対等になることが大事なのです」

奈良氏は、話すためには雰囲気も大事で、和やかな表情は欠かせないと語る。

「患者さんに向かって『笑え』とは言いませんが、和やかな表情は大事です。服装も最低限の身なりは整えておきたい。ただし、医院も結構忙しいですから、外来で一人の患者の相手ばかりをしていられないので、時間がかかる人には、後で別に時間を取るとか、工夫も必要です。急患がいるときには待っている患者に時間がかかることを説明するとか、別な医者を手配するとか、そういった気配りは大事になります」

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